藤田友弥

ふじたともや

1990年、兵庫県多可郡生まれ。専門学校を卒業後、東京の縫製会社へ入社。展示会などに並べるサンプル製品の縫製やアイロンプレスの仕事を通じて技術を磨き、2018年にUターン。西脇ファッション都市構想の「デザイナー育成支援事業」を通じ、2018年1月に西脇市のアパレルメーカーに入社。自社ブランドの育成に携わったのち、2020年2月、Bremen worksを立ち上げ独立を果たした。

  • 好きなことを仕事に生きてゆく!
    目指すのは「あなただから」と選ばれる縫製工房

  • 軽やかに出した一歩、「自分の力を確かめてみよう!」

    Uターンを決めた時から、いつか縫製の仕事で独立したいという気持ちはありました。でも「よし、起業しよう!」と、一大決心をしたというわけではないんです。自分の好きなものを自分の力でつくったら、まわりがどんな反応を示してくれるのか確かめたいと思ったことがきっかけです。まずは1年~2年やってみて、続けていくのはちょっと厳しそうだなと感じたら「会社員に戻ればいいか……」と思って始めました。
    西脇市の「デザイナー育成支援事業」を通じ、市内の企業に2年間勤務させていただいたおかげで、独立後も仕事でつながらせていただいたり、ことあるごとに社長に気にかけていただき感謝しています。

  • 1点ずつ丁寧に。技術が詰まった工房で、喜ばれる仕事を!

    現在の仕事は、洋服サンプルの縫製が中心。量産型の縫製工場ではなく、1点ずつ丁寧につくっていく工房です。地元企業を中心に、最近は大阪や東京からも少しずつ仕事をいただくようになっています。
    展示会に並べた時、製品サンプルの良し悪しが契約を左右することもあるため、「藤田さんに縫製してもらうと、サンプルの仕上がりがいい」と声をかけていただけるのは、とてもうれしいです。喜んでいただくために心がけているのは、一つひとつを寸法通りにしっかり仕上げること。手作業ですから1ミリ~2ミリのズレはどうしても起きるんですが、それが重なると型紙からかけ離れた仕上がりになってしまいます。また、ステッチを美しくかけること、シャツの襟先までしっかりとがらせることなど、サイズからディテールまでトータルにバランスよく仕立てることに気を配っています。

  • 縫製とは、イメージを形づくること

    地元で同じように頑張っているテキスタイルデザイナーや機屋(はたや)の仲間ができたことで、「播州織」が身近になりました。自分がこの生地の産地でできることって何だろうと、考えられるようになったんです。服をつくりたいのにそのすべがなく困っている企業に、縫製技術を提供することで地域全体のメリットにつなげられたらいいな、地元の人たちと一緒に播州織を使ったものづくりができたらいいなと、思うようになりました。
    相談しながら一緒にじっくりつくっていける工房として、「生地を製品化したいが、どうしたらいいのかわからない」という声に応えることが、僕にしかできないものづくり。指図書や資料がない時でも、パタンナーやデザイナーをはじめ、オーダーする方がどんな雰囲気の製品を作りたいのかイメージし、そこに近づけるよう気を付けています。それが、他の縫製工場と異なる「Bremen works」の強みだと思っているんです。
    型紙や生地が同じでも、ちょっとした縫い方の違いで見栄えや全体の雰囲気、イメージが変わります。「このプリーツの幅はもっと細く」「ギャザーの寄せ方を均等に」「タックの取り方を変えたほうがイメージに近い」など、縫製する側も、ブランドや製品のイメージをつかめているかどうかが重要です。僕のように洋服が好きで縫製に取り組む人間は、パターンや指図書を見ればどんな仕上がりを求められているのかイメージができます。仕上がりがイメージできることは、縫製者にとって大切なスキルなんです。

  • 産地で始めるブランドを、みんなで一緒に育てたい

    自分が本当にやりたいことに、近づいている実感があります。この一年は、お客様からのオーダーを形にすることで精いっぱいでした。これからは、自分でものづくりをして販売することにも挑戦していきたいと思っています。そのひとつが、播州織を使った生活雑貨をはじめ、いろいろな人に手に取ってもらえる製品開発。そしてもうひとつは、大好きな洋服のオリジナルブランドをつくることです。
    最近はECサイトによる販売が活発ですが、地元の人に身近に感じていただけるブランドに育てたいので、工房にショールームをつくり販売したいと考えています。「セミオーダーでつくりたい」「持ち込んだ生地で仕立てて欲しい」「着丈を詰めたい」「ボタンを替えたい」といった要望にその場で応えながら、お気に入りの一着を一緒につくれたら楽しいだろうなと思うんです。西脇のまちにも、そういう場所があったら面白いと考えているところです。

  • 10年後どうなっていたいのか、考えることから始めよう

    私自身も独立してからいろいろなことを勉強し、考え、「自分で食べていくって、こういうことか」とようやくわかってきたところです。好きなことで独立する人は、収入を上げていくことも含め、10年後の働き方や自分のあり方を長い目で見据えられていないケースが多いのではないかと感じます。
    私も最初は好きなことを続けながら、自分一人でこじんまりやっていこうと思っていましたが、自分がやりたいこと、売上をちゃんと確保すること、従業員が働きやすい環境をつくること、これらのバランスをどうとるか模索しています。気軽に踏み出すことも大切ですが、本当にその仕事が好きかどうか、独立前からしっかりと確認して自覚したうえで始める方がいい。好きなことだからこそ、仕事にすると大変なこともたくさんあります。事業として続けていけるビジョンを持って、トライして欲しいと思います。
    デザイナー育成支援制度を通じて協力者が周囲に生まれ、仕事がしやすい環境が整っている今、私の起業がまわりの育成デザイナーたちのきっかけにつながればいい。産地に新しい動きが生まれることを期待しています。