播州織を世界のテキスタイルブランドに!
広い視野で無限の可能性を追いかけたい

足立 直人

あだち なおと

東播染工株式会社 [テキスタイルラボ プランナー]

兵庫県出身 / 上田安子服飾専門学校インダストリーマスターズコース卒

会社hp : http://www.toban.jp

  • 1. 西脇市へ移住した理由

    12年前、あるデニムテキスタイルメーカーへ見学に行った時、そこで素晴らしいハイブランドの生地がつくられているにもかかわらず、そのことが、国内ではおろか地元でさえ知られていないことに衝撃を受けました。日本のテキスタイルが衰退している理由の一つは、国内にブランド力の高いテキスタイルメーカーが存在しないことだとその時から思っていました。私は13年間、東京のアパレルメーカーでパタンナーとして服づくりに携わる中で、多くの人と出会いたくさんの経験を重ねてきました。その経験から、多角的にテキスタイルについて考え、そしてテキスタイルのブランド化に取り組むことの準備をしていました。
    平成30年5月に初めて播州織の産地を訪れた時、この産地が国内で唯一、先染め織物で一貫生産を行えるという強みを持っていることを知りました。加えて、まち全体でこの産業を残していかなくてはいけないという危機感を行政サイドも持っていることがわかりました。その中で、生地の価値を高めるためのプロモーションやビジュアルに力を入れ始め、ブランド化していこうという姿勢や想いが伝わってきた東播染工株式会社なら、それを具現化できると思い転職を決めました。
    播州織の認知を進め、西脇のテキスタイルをブランド化したい。それが、私が西脇に来た理由です。

  • 2. 現在の仕事

    入社して3ヵ月間は、研修として工程順に現場を回っていました。染色、サイジング、製織、加工、いずれの現場も経験のないことばかりでした。200人近い従業員の全員が、お客様の手に生地が渡るまでの工程で、何かしらの仕事に携わっていることには感慨深いものがありました。どこかで不具合が起きると、お客様に渡せる生地になりません。ひとつの作業を大切にしていかなくてはいけないと思うのはもちろん、生地になるまでの工程や私たちの思いをお客様にもちゃんと伝え、知ってもらわなければいけないと感じました。自分たちデザイナー育成研修生が存在する意味や、テキスタイルを通して社会へどう貢献していくのかを自らも考え、それを周りに伝えることはとても重要だと思うのです。そういう意味でもこの研修期間は、かけがえのない素晴らしい時間でした。会社に感謝しています。
    これから取り組みたいことは、自社テキスタイルのブランド化です。ブランド化のためにはまず認知度を上げること。認知度を上げるためには、良い生地をつくってお客様に満足していただくことが第一です。
    人間が生きるうえで、テキスタイルは絶対必要になります。服やカーテン、ソファカバーなど、日々の生活はテキスタイルに包まれています。さらに広い視野でテキスタイルをとらえ、いろいろな用途や可能性を探り、提示していく必要があります。まずは東播染工株式会社が、そんなテキスタイルを生み出せる企業なのだと多くの人に知ってもらうことで、可能性を拡げていくのが自分の仕事。そこから産地全体のプロモーションにつながっていけばいいと思っています。

  • 3. 播州織の魅力、産地の魅力

    デザインにも製品としての形にも、いろいろなバリエーションを生み出せることが、播州の先染め織物の良さだと思っています。テキスタイルは劣化しますが腐りません。さらに、毎日使用しない限り簡単に消耗もしないことに気づくことで、物が豊かにあふれたこの時代でも、心が豊かになるものを選びたいと、消費者の意識は変わっていくはず。消費者のニーズに応えるには、シャツ地やコート地といったさまざま用途や色柄に至るまで、自由度の高い播州織がぴったりです。まだまだバリエーション豊富にデザインできる可能性が大きいと思っています。
    たとえば、素敵なカーテンに架け替えたら毎日眺めることが気持ちよかったり、ちょっと高価なシャツを着たら気分が上がったりするように、テキスタイルは人の心を豊かにします。そのテキスタイルが、どういう経緯で、どういう想いで、どういう手を通ってきたのか、共感されるストーリーがきっと存在するはずです。
    一枚の生地ができあがるまでに、こんなに多くの人の手を通ることも、長い時間がかかることも、私自身、西脇に来るまで知りませんでした。テキスタイルをつくっている人たちのことに思いを致すと、自分たちにももっと伝えることがあるのではないかと思いました。「アパレルメーカーや一般消費者が知らない」のならば、こちらから発信し伝えていくことが大切。そうすることで、産地全体のことももっと伝わりやすくなるように思います。
    大量生産の時代は産地一体でモノを考えればよかったのですが、これからは「ここの機屋は、これが得意だから」と、細やかにフォーカスを当て、紹介していくことが必要だと感じます。それがより多くの人に認知されることで、西脇のテキスタイルのブランディングをかなえることにつながるはずです。

  • 4. 西脇市に住んでみて感じること

    私の出身地三田市はベッドタウン。播州織のように昔から続く産業がありません。西脇市のように、地場の産業があるところは歴史が違うと感じます。産業の歴史は残しながら形を変え、成長していくものですが、加えて外からの目線を産地の中に採り入れ、新たな形に変えて外へ発信することが大切だと思うのです。テキスタイルを服という解釈だけではなく、もっと広い用途でとらえることができれば、新分野の開拓にも既存分野の発展にも貢献できるはずです。
    新しいチャレンジには、時代の変化とともに考え方自体も常に壊していかないと、新しい発想も解釈もまず受け入れることもできません。
    そしてもう、一つの業界だけで考えている場合ではないということです。人がいる限り必要とされるのが、テキスタイルです。異業種とテキスタイルは、どんなものでも関係を結べるので、どこに可能性が潜んでいるかわかりません。新規事業に対する研究や開発を、異業種はどうしているか、どう関わっていくのかを常に観察し、自社はどう動くべきなのかを考えること。動くためには、職人さんたちと共に視野を広げ、変化していくことが必要です。播州織は、このまちの歴史です。播州織をつくることは播州織の存在証明であり、この西脇の存在証明でもあります。播州織が発展することは、この西脇が発展することです。
    自分たちデザイナー育成研修生の若い力を、どんどん生かしてほしいと思います。

  • 5. 播州織産地で働いてみたい人へ

    自分のプロジェクトを明確にして、ここで何をしたいのかを考えてから来るべきです。
    情報を集め、事前にインターンシップで来てみること、西脇で何ができるのかを自分でしっかり考えること。自分のプロジェクトに対し責任を持った行動をしたうえで、ここに来ることが絶対必要です。
    私の目標は、東播染工株式会社を世界でトップクラスのテキスタイルメーカーにすることです。いつまでに何を実現したいのかを、ずっと明確に持ちながら仕事を続けています。たくさん失敗もしましたが、失敗も成功も行動しないと次には進みません。だからこそ、みなさんにこのチャンスを存分に活かし、ここでしかできないことで、自分を投企(*)してほしいと思います。

    *投企(とうき):ハイデッガーによって提唱された哲学の概念。常に自己の可能性に向かって存在しているのが人間である。自分の存在を発見・創造するため、自分自身を未来に投げかけていくという思想。