「産地に骨を埋めます!」 本気の覚悟と営業力で、
織機を操るテキスタイルデザイナーをめざす!

椿原 悠至

つばはら ゆうじ

福岡県出身 / 文化服装学院ファッション工芸専門課程ファッションテキスタイル科

  • 1. 西脇市へ移住した理由

    大学を卒業後、一度は一般企業に就職しました。でも「定年」で人生が終わってしまうのがもったいなくて、自分のやれることで生涯現役を貫きたいと思ったんです。
    この道に進んだきっかけは、もともと服が好きだったことと「産地活性」に興味があったこと。「好きな服と産地をつなぐものは生地か?」と思い専門学校へ。産地見学や東京の展示会で大城戸織布に出会いました。やれることは自分で全部やりたい。社会人時代に培った営業力を活かしたい。そんな自分の考えと、今の産地にはない考え方で先行している大城戸さんの方向が一緒だったんです。自分が師として仰ぎたいと思った人は、大城戸さんだけ。だからここに来ました。
    産地が低迷している要因を「時代」のせいにしがちですが、僕自身はつくり手の営業不足としか思っていません。同じ考え方の大城戸織布に入ることは、自分もこれから伸びるチャンスをつかめると思ったんです。大城戸さんとの出会いがなかったら、機屋という職業は選択していないですね。

  • 2. 現在の仕事

    今の仕事は「全部」です! 毎回決まったことを行うのではなく、現場でその都度起きたことに対応しなくてはならないので、できないことも全部経験し、少しずつ前に進んでいます。
    ここでは機械のメンテナンスや改良も、ノウハウを身につけて自分でやっちゃうんです。組織を考えて織機を調整したり油をさしたりしながら、自分で織機を動かし、自分でデザインした生地を、自分で織る。そんなことができるのは、ここだけじゃないかと思っています。自分でデザインをすることより、織ることのほうが難しい。糸や組織が違えば風合いも違う。加工も勉強不足。まだまだ知識も経験も足りません。

  • 3. 播州織の魅力、産地の魅力

    産地の中だけにいるより、他の産地とやりとりをする方がいろんな刺激を得られます。新しいものもそこから生まれてくるので、一貫生産地としてのメリットは正直あまり感じません。他の産地にこそヒントがあると思っています。
    産地活性化という自分の目標に向かって、最初はテキスタイルデザイナーとして産地とつながっていければいいと思っていたんです。でも実際の現状を見ると、その産地の中で自分がつくり手になって自ら発信していかないと、活性化にはつながらないと気づきました。だから今は、つくり手として進みたい、アピールしたいと思っています。
    営業職の経験から産地を見た時、危機感はあるけれど、その解決のためにどれだけ行動に出ているんだろうと疑問を感じました。もっと「けんか腰」にならなくていいのか? 自分が抜きん出る気持ちがないと、産地全体を盛り上げることはできません。「うちが一番だ」って、みんなで切磋琢磨していかなきゃいけないんじゃないのかと思います。肌で感じる危機的状況は、たくさんありますね。

  • 4. これから目指す未来

    オリジナル生地を自分で作りたいんです。細番手の綿シャツ地だけをイメージされたくない。うちのように常に挑戦している機屋は珍しいと思うので、いろんなものがつくれることにシフトしていきたいんです。外からやって来るテキスタイルデザイナーではなく、産地の中にいるつくり手としてデザインの主導権をどう取っていくか。その必要性が重要視される時期が来ていると思います。
    織機はうまくできているなと、触ってみて初めて気づきました。先人の知恵が改良されて今の織機があるわけですから、さらに自分が改良していくことも目指さなきゃいけない。生地をデザインできるようになるだけじゃなく、織機が故障したら自分で直し、織りたい生地に合わせて織機を自在に扱う。その結果、織りたいものが織れる。それこそ機屋であり、プロのテキスタイルデザイナーだと思うので、早くそこのスタートラインに立ちたいんです。
    目標は、3年以内で「若手」と呼ばれる人に追いつき並ぶこと。機屋の中だけじゃなく、いろんなデザイナーとも発想力で競争していきたい。こういった気持ちを表に出すことで、周囲も産地全体も奮起できるはず。選ばれる生地は、つくり手の「人となり」と「営業力」で決まりますから、競争によって成長し、レベルアップすることで生地の価値も上がると思っています。

  • 5. 播州織産地で働いてみたい人へ

    自分が産地に入ってみて思うことは、新卒で来るより経験を積んでから来た方がいいんじゃないかということ。一度、田舎に来て夢をあきらめてしまったら、その後、大手に就職したくても難しいのではないかと思います。
    「都会でしのぎあうより、田舎に行った方がデザイナーになりやすい」とか「田舎でスローライフを楽しみながら、自分のやりたい仕事をやろう」っていう講演もあると聞きますが、実際に機屋に入ってみたら、工場の中では田舎の空気も吸えないし、暗いところでずっと仕事をしているだけ。ものづくり、生地づくりといった一次産業に取り組みたいなら産地ですが、やっぱり覚悟がないと続きません。
    大城戸織布への入社の条件は「骨を埋める覚悟で来い」ということ、そして「オーナー(大城戸さん)を越えて行け」というものでした。産地では骨をうずめる覚悟が必要だと、自分も来てみて思っています。