「もの」と向き合うことが、ものづくりじゃない。
人との関わりから生まれるストーリーを、製品にして届けたい。

髙井 幸一

たかい こういち

株式会社丸萬 [ポルス事業部 企画営業]

大阪市出身 / 大阪モード学園ファッション技術学科卒

会社hp : http://www.maruman-inc.jp

  • 1. 西脇市へ移住した理由

    専門学校を卒業後、大阪市内の繊維商社でレディースアパレルのデザイナーとして勤めた後、営業職へ転向し計8年間働きました。お客様と直接ふれ合う機会の多い職場を求めて転職活動を始めた時、播州織の存在を初めて知ったんです。こんな近くで、ものづくりに取り組んでいる産地があるのかと大いに興味を持ち、お客様にもつくり手にも近い立ち位置に惹かれ、株式会社丸萬への入社を決めました。特にオリジナルブランド「ポルス」は、地場産業に持たれがちな枠にはまったイメージを払拭する生地の斬新さや、海外販売にも挑戦している元気の良さと柔軟性に、ブランドとしての可能性を感じました。

  • 2. 現在の仕事

    つくることと売ることは直接つながっていると感じるため、ポルスの企画営業として、現場でのお客様の声をできるだけ本社に伝えるようにしています。ものづくりって、ものとだけ向き合っていてもだめ。買い手がいないと成り立たない世界ですから、どれだけお客様と向き合えるかが重要だと思っているんです。
    国内のセレクトショップや百貨店への販路開拓に携わる際は、特にその姿勢を大切にしています。中でも百貨店のイベントは、お客様との距離の近さが魅力です。ある時、ひとつの商品を買うために、何度も足を運んで検討してくださるお客様がいらっしゃいました。本当に服がお好きな方で、「せっかくこんなにかわいい服を着るのだから、色やデザインを活かす着こなしを」と悩まれ、私たちと何度も相談をされお買い上げくださいました。
    その場にある製品が売れるだけでなく、ブランドのファンになってくださり、次のイベントに足を運んでいただけるお客様に出会えるようになってきていることも、本当にうれしいです。
    そんなお客様と向き合うためにも、生地の魅力、生まれた背景、製品の使い方や着こなし方まで、ストーリーとして伝えながらポルスを通じて様々な挑戦を続けたい。そしてそれが、ゆくゆくは播州織全体への注目に繋がればいいなと思います。

  • 3. 播州織の魅力、産地の魅力

    初めて現場を目にした時、力仕事の多さに加え、それぞれの工程へバトンを渡す時、たくさんの人の手が関わることに改めて大変な仕事だと実感しました。不眠不休で働く方、技術だけでなく精神面や体調面も気にかけながら、一生懸命に取り組まれている高齢の職人さんたちに出会ったことで、ものづくりには「人」が関わっているということが一層リアルに感じられ、重み、伝統、価値観も含めた地場産業の意味がわかるようになりました。
    システム化された中でものがつくられる現代ですが、いいものはそう簡単には生まれません。例えば、弊社のカットジャカードと呼ばれるデザインは、一つひとつハサミを使って人の手で切ることで形になります。地場産業の良さって、こうした人の手がたくさんかけられ、つくられているところ。しかも播州織はプロフェッショナルたちがものづくりに取り組む分業制で、品質の高さを求めることへのこだわりが感じられるんです。
    播州織の一番のアピールポイントは、こうした人の力。身をもって実感できたことで、プレゼンテーションや販売の現場に立つ時も、伝える想いに説得力が生まれてきた気がしています。

  • 4. 西脇市に住んでみて感じること

    人との距離が近く、温かいまちだと感じます。田舎と呼べる故郷を持たないので、実は西脇市に来るのがとても楽しみだったんです。時間がゆったり流れている気がして気持ちが落ち着き、自分自身にもゆとりが出てきた気がするんです。せっかく産地に来たので、ものづくりの知識をもっと深めたいと思っています。
    そんな居心地の良さを感じると同時に、事業承継という大きな課題を抱えていることもわかりました。後継者を見つけるだけではなく、いろいろな要素を組み合わせて受け継いでいかないといけないのではないかと思っています。播州織という「名前」が地場産業ではなく、播州織をつくっているそれぞれの技術や工程ひとつひとつを地場産業ととらえれば、そこに他産地や海外もひとつの技術として加えてもいいのではないか。ものをつくるためのひとつのパーツとして技術があると考えると、播州織産地は集めたパーツを仕上げるところ、すなわち「播州フィニッシュ」とでも呼ぶべき方法を採り入れるのも、地場産業を残す一つの方法ではないかと感じています。

  • 5. 播州織産地で働いてみたい人へ

    今、西脇市はいろいろなバックアップ体制が整い、目標や夢をかなえるにはいい環境だと思います。他のデザイナー育成研修生たちが、それぞれの特徴や得意なことを打ち出している様子を見ることで「こんなことができるのか、じゃあもっといろんなことに取り組めるな」と、いい刺激を受けることもできます。
    自分で生地を作り、自分で企画に関わり、自分で販売できるのは、川上から川下まで全部まとめて取り組める、この産地でしか体験できないこと。それが、ここの最大の特徴であり魅力です。万一つまずいて心が折れ、一度ゼロに戻ったとしても、自分のこだわりが通用しないことを体験するのは大切です。作り手の目線から考えることができる環境なので、改善への気づきや次のアイデアに繋がる切り口など、成長のために必要なものはすべて揃っていますよ。