つくり手の心を重ねて織りあげる播州織。
人のつながりを大切にした、ものづくりに挑みたい。

河野 詩織

こうの しおり

東播染工株式会社 [テキスタイルラボ プランナー]

兵庫県出身 / 上田安子服飾専門学校ファッションクリエイターアドバンスコース卒

会社hp : http://www.toban.jp

  • 1. 西脇市へ移住した理由

    播博(ばんぱく*)に足を運んだことがきっかけです。かつて工場見学に訪れた東播染工株式会社(以下、東播染工)の出展ブースを見つけて立ち寄ったところ、見学でお世話になったスタッフの方々と再会。誘っていただいた東播染工のインターンシップに参加したことが、入社につながりました。
    編み物が趣味だということもあり、以前から糸には興味がありました。一本の糸が生地になり、製品として使われるまでの流れが「つながり」を連想させ、ストーリーを感じさせてくれるところが好きな理由の一つです。また、質感や風合いを表現するための大切な存在であること、機械でも自分の手でも織れるくらい活用の幅が広いことも、糸の魅力だと感じています。糸を染めてから織る先染め織物は、自由自在に見せ方を楽しめるのでとても魅力的です。

    *播博(播州織産地博覧会):「織物のまちに、織物の名物市を!」との想いから始まった播州織の生地マルシェ。西脇市の中心市街地の空き店舗を会場に、播州織生地や製品の販売をはじめ、飲食コーナーやワークショップなど様々な出展ブースが並ぶ。市内外から5,000人以上が来場する人気イベント。

  • 2. 現在の仕事

    各生産工程を回る研修の中で、それぞれの工程で働く人たちが次の工程に携わる人たちに、とても配慮をされていることに気づきました。ちょっとした心配りで、次の工程での作業がしやすくなることを勉強させていただいています。自分の仕事だけではなく、自分の次の工程に携わる人へ心を配れるようになりたいと、研修を通じて思うようになりました。周りの人たちとコミュニケーションを取りながら、オリジナルテキスタイルを生み出せるようになりたいです。
    そしてもうひとつ、生地の美しさを引き立てるための「気づき」を、デザインに採り入れられるようになりたいと思っています。例えば、工場の機械をいつもと異なる目的で利用することで、新しい生地がつくれないかとか……。ちょっと違う角度から眺め、設備の使い方を工夫することで、ハッとする斬新なデザインを生み出すヒントを見つけられたら。みんなで一緒に楽しみながら、ものづくりができたらいいなと思っています。

  • 3. 播州織の魅力、産地の魅力

    深みがあって美しい。そう思いながら、いつも播州織の生地を眺めています。糸を染めてから織ることで、糸の色が重なって深みが出たり、その重なりが生地の奥行きを感じさせてくれるのだと思います。そうした糸の重なりと、いくつもの生産工程の重なりがシンクロしているように思えるので、播州織によりいっそう美しさを感じるのかもしれません。
    ものづくりの背景には、糸を染め、織り上げ、加工し、仕上げる作業を行っている「人」がいます。そうした人のつながりを直接肌で感じながら、仕事がしたいと思っていました。実際の現場に身を置きながら企画に携わり、ものをつくることの意味を考えたり感じたりしたかったんです。それがかなうのが、一貫生産体制である播州織産地であり、東播染工でした。人とのつながりを大切にしたものづくりに取り組める職場であることがうれしいです。またそれが、播州織の産地で働かせていただく意味でもあると思っています。

  • 4. 西脇市に住んでみて感じること

    今は職場の先輩の家に一緒に住まわせていただいています。他の育成デザイナーをはじめ、いろいろな人が集まるシェアハウスのような存在です。職場の人たちがやって来たり、みんなでお花見をしたり、私生活の延長線上にそのまま仕事があるような感覚で、寂しさを感じることもなく毎日楽しく過ごしています。
    そして、みんながやさしい! 工場の方々も、質問をすると丁寧に教えてくださいます。おもしろいのは、皆さんそれぞれが仕事上のマイルールを持っていらっしゃること。例えば、糸を美しく巻くためのひと手間や、まんべんなく糊付けをするために工夫されている目安などを、「ちなみに……」って教えてくださるんです。メモしようとすると「そんなん、わざわざ書かんでもいい」って笑われますが、ずっと携わってこられた背景が垣間見える気がして、そんなやりとりも楽しんでいます。

  • 5. 播州織産地で働いてみたい人へ

    働く場所との出会いは、ご縁だと思っています。学生時代は他産地のプロジェクトに関わり、とてもお世話になりました。でも播州織のイベントに足を運んだことで声をかけていただき、インターンシップにつながって、今の私があります。気になる産地があれば、まずはコンタクトを取って実際に足を運んでみてください。どんな生地がつくられているのか、自分の目で見て、産地の方と話をすることが大切だと思います。そこからは、自然な流れの中で生まれるご縁によって、物事が進んでいくような気がするんです。