私にとって今の正しい場所、それが西脇。
播州織の多様な魅力をもっと活かし、伝えたい。

藤岡 彩音

ふじおか あやね

遠孫織布株式会社 []

大阪府出身 / 早稲田大学国際教養学部卒、Bath Spa University BA(Hons) Textile Design for Fashion and Interiors(英国)卒

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  • 1. 西脇市へ移住した理由

    大学時代、友人を亡くしたんです。それがきっかけで卒業後、イギリスに留学してテキスタイルデザインの勉強をしました。生地はいつも人の周りにあり、人に触れている。だから服地でもインテリアでも、日常に取り込めて、使う人の気分がちょっと明るくなるものを作ることができると思いました。
    イギリスでは手織りを中心に制作していたのですが、織物工場の見学に行った際、それまで冷たいイメージを持っていた機械織も、たくさん人の手がかかるということに気が付きました。
    「手織りではこんなに自由な図案を、この速さで織るのは難しい。機械だからこそできる生地もある。私もやってみたい!」 そう思ったのが、ジャカード織でした。
    モノを使う人にとって「どこで、誰が、どんなふうに作っているのか」わかることで、作り手や土地とのつながりを感じられるのではないかと思っていたので、製織から直販まで行っている小規模の織工場に入りたかったんです。そんな折、播州織ジョブフェアでの紹介で遠孫織布の社長に出会い、「ここで働かせてください!」と頼み込んで入社しました。

  • 2. 現在の仕事

    少人数の工場なので必要なことは何でもしますが、糸の準備をする、切れたら結ぶ、織機の不具合を調整する、織り終えた経糸(たて糸)をつなぐ、出荷前の生地を検査する……という作業が中心です。効率よく仕事を進めるために、倉庫内にある1500本以上の糸をリスト化しました。どのメーカーのどの色が、いくつあるのかといった管理を行っています。催事では商品の準備とディスプレイ、販売を任せてもらいました。売り場ごとにお客様の求めている商品はどんなものか、どういう見せ方をしたら手にとってもらいやすいかを考え、あらかじめスケッチを描いて提案しています。
    インスタグラムで発信したいとお願いしたのも私です。工場の中や生地が織り上がる様子、新作の紹介などを更新していると、投稿を見て催事に来てくれた方もいらっしゃいました。その他にも「これは店で買えるのか」といった質問や、海外からの問合せも少しずつ増えてきています。写真の撮り方も含め、生地の魅力が届く見せ方でしっかり伝えれば、見つけてくれる人がいることを実感できました。
    これからは、誰かの暮らしがわくわくするような生地を自分でも企画設計したい。今、自分の手で糸を通して織っているからこそ「この生地はこの糸を使って、こういう織機で織っているから、こういう風合いになる」と伝えられますし、伝わり方も違うと思っています。

  • 3. 播州織の魅力、産地の魅力

    裁縫もしない、生地も買ったことがない、でも「なんかこれいいね、どうしたらいいかわからないけど」とおっしゃる男性が、催事に足を止めてくださったことがありました。「お好きなように、たとえばテーブルセンターや、棚の目隠しにもお使いいただけますよ」と言うと、「そうか、そうしてみるよ。なんか、眺めているだけでもいい気がする」と購入されたんです。
    生地が未完成の状態のように言われたり、洋服などの製品にするところまでがデザインだという人もいますが、私は生地も製品だと思っています。あの男性のように、生地そのものを楽しんでいただくことも、また「この生地で何をつくろう?」というお客さま自身の創造性を刺激することも、商品としての生地の価値だと思っています。
    「播州織の魅力」とざっくりまとめられたり、自社の生地について「これも播州織?」と訊かれることも多いのですが、一口に播州織と言っても、今は各社それぞれに個性があります。織工場が自分たちの製品をつくることができるようになったからこそ、工場ごとの強みが表現できるようになり、それが多様性を生みだしている。そんな多様な播州織の良さを伝えていけたらいいなと思っています。

  • 4. 西脇市に住んでみて感じること

    「見せ方、伝え方まで含め、あなたの作品として責任を持ちなさい」とイギリスで学んだことは、現在の仕事にとても役立っています。その学びを活かし、産地の中の他社の担当者さんと「こういう展示方法にしたら興味を持ってくれる人が増えたよ」「こういう工夫をしたらいいかも」などと交流しています。
    産地という集合体として勢いづき、向上していくにはコミュニケーションが必要です。違いを良さとして意見を出し合い、それぞれが成長できたら、もっと産地全体が盛り上がっていくと思うんです。
    こんないい製品をつくっている織工場が、どうして無くなっていくのか。魅力の活かし方、伝え方次第なのではないかと思うと、もどかしい気持ちになります。一般の人に知ってもらわないと、この仕事をしたい人も現れません。今はインターネットのおかげで、ものをつくる人と使う人が、離れていてもつながることができる時代です。こんなところで、こんな人たちがつくっていると伝えていけます。今の自分にできることで、産地に貢献できることもあると希望を持っています。

  • 5. 播州織産地で働いてみたい人へ

    私はいま古民家のシェアハウスに、先に移住してきた産元のデザイナーさんと一緒に住んでいます。同年代の移住者が多いのも西脇に住みたいと思った理由の一つだったので、「加工場でどんなことしてるの?」「産元の仕事って?」「検査ってどんな感じ?」など、気軽に異業種の話を聞けるのがおもしろいです。それぞれの商社や現場で、デザインをする人、糸を染める人、織る人、加工や検査をする人、縫製をする人、生産管理をする人など、多様な仕事があり、事業所ごとに特徴があって考え方も違う。まずは見学に来て、人と会ってみるのが一番早いと思います。私がいま望んだ仕事をできているのは、産地へ足を運んだり、人に会って話を聞いたりしながら、少しずつ自分のしたいことに近づいてきた結果のような気がします。他の人ではなくあなた自身が何をしたいのか、それがかなう場所で、かなえられる人と出会えたらいいですね。
    その時その時で、自分にとって正しい場所にいられたらいいかな。それが今の私には、西脇なんです。